"Moon Poetry"

寫眞館ゼラチン×三浦エミル対談


2018年4月"Moon Poetry"を発表したsheeplore三浦エミルとアーティスト写真&メインビジュアル撮影の寫眞館ゼラチンによる対談



お互いについての印象はどういったものでしたか?

寫眞館ゼラチン(以下G) 『sheeploreという名前を見た時に、オシャレだなと思いました(笑)。なんていうんだろ、無駄がない感じというか削ぎ落とされている印象というか。それが別に斜に構えてるとか、カッコつけてるのを感じさせないのが印象的でした。』

三浦エミル(以下E)『撮るモチーフがすごく好きで[カッコイイ]印象がありますね。モノクロの写真を見て、モノクロというか影というかその被写体の闇を引き出すのが素敵だなと思っていました。』



撮影をしてみてどうだったでしょうか?

G『今までもアーティストの撮影のお仕事などを頂いた事はあるのですが、コンセプチュアルであっても明確なものがあるというよりはお任せでというのがあったりするのですが、今回の撮影では、コンセプトが強いけれどその中で私のイメージでという事だったので少し緊張感を持ちつつやれたかなと思いましたね。』

E『お陰様です(笑) 今回の作品では”影”というのがとても重要なモチーフで、まさに物語の影というか見えないところというか精神的なモノを引き出してもらえました。素晴らしいなと。』



ゼラチンさんは今回の撮影で特に気を使った事や新しい発見などはありましたか?

G『コンセプトが明確にある分ある程度正解があるので、いつも以上に自分の中ではピリッとした撮影になったなと思いました。デジタルなのでプレビューを見てその都度反応を頂いて進めていくというのは、やりやすかったなと思いました。』

E『アー写もそうなんですけど構図というかバランスというかピアノの影がどのくらい写っているか、一枚の絵に対して影が写真の何割を占めているかで印象が変わるなというのがすごく面白いなと思いましたね。』

G『特に白黒だと色の制限がある分、情報量が少ない中で影やグラデーションでどう表現するのかというのがモノクロの強さだと思っているのでカラーで撮る方が私には情報が多すぎてどこに重きを置いていいのかわからなくなるというのは多少あるので今回の依頼では自分を発揮しやすいという部分は確かにあるので大きな括りでいうとやりやすかったというのはありますね。』



今回のメインビジュアルはsilentmusicで撮影されましたがどうでしたか?

E『いいところですよね。階段を上がると非現実の世界に行けるというか、素敵で。』

G『前からお名前は聞いていたのですが、初めてお伺いしました。それまで中と外がどう繋がっているのかが想像できなくてエミル君が言った通り階段を上がると異世界、庭から中へ入って行った時に自分が汚れているな(笑)と感じてしまうくらい聖域のような神聖さのある場所でした。』

E『浄化されますね。』

G『浄化されるね。』

E『僕が初めてsilentmusicに行ったのは永井健一さん(シュトラスブールの雨傘のジャケットを描いていただきました)の展示をやっている時で、銀河鉄道だったかな。ピアノの演奏もそこで聴けて、感動した記憶があります。silentmusicに居ると色々考えちゃいますね。日々の自分の穢れを(笑)』

G『バブーシュカ(下北沢にあるカフェギャラリー)もそうですが、silentmusicの洋風さというか、自分の作品が入っては行けないところなんじゃないのかというのがずっとあって、昔撮っていた写真が和テイストなものが多かったのもあるので (笑) 鳥居とか。意外と洋風なものも好きなんですよ。』

E『意外じゃないですよ。意外となのが意外ですよ(笑) 撮影の時も凄い相性の良さを感じましたよ。』

G『ありがとうございます。好きなものの共通点といえば、経年劣化のある建物だったりわざと作ったものではなくて、時代時代の重みのある建物とかに惹かれるので。そういった意味ではバブーシュカやsilentmusicとの相性がいいといっていただけるのはそういう部分で繋がってるのはあるかもしれないですね。』

E『なるほど。ゼラチンさんの作品にはなんというか命の儚さのようなものが感じられるのは、そういう背景があるからなんでしょうね。時間を想像するというか、そういう気持ちになります。』

G『ありがとうございます。 記録写真ではあるんだけど、何故それがそこにあったのかというのをどこか自然に考えながら撮ってるところはあるので、例えばこのコーヒーカップにしてもどう撮るかで印象が変わるし、手前に置くか端に置くかでそれによってその人のための物語が出てくるのでそれを考えながら撮る事は心掛けていますね。』

E『気になった事があるんですけど、写真の完成形というのは最初から見えてるんですか?』

G『そうですねえ、ある程度は。いつも写真を撮るときにこれいいなと思って撮ったものは、現像してプリントして乾燥して額装して初めて一つの作品になるので、結果的に一番初めにこれいい!と思って撮ったものが額装まで行かない事もあるんですよ。その手前でやっぱ違うなとなると想像もしていなかった別のカットが良かったりする事もあるので、ある程度想像しながら撮るけれども、明確に見えているかと言われるとそうではないですね。どちらかというと。』

E『なるほど…。僕は写真はあまり撮らないので、今のを聞いて思ったんですけど、写真というのは現像して完成だと思っていたので、額装という過程まで考えて作るというのは想像しなかったです。確かにゼラチンさんの個展で見る写真はあまり見たことのない額に飾られていますね。』

G『写真だけを展示するという方ももちろんいますが、展示の空間と一緒に見るというのは私が心掛けている事の一つではあります。空間を作る上で写真は一つの素材ですし、額縁も一つの素材として考えているので、トータルで考えて作るようにしています。最近の作品でいえばマット加工という、写真に対して適正サイズの額縁に入れるのではなくて、あえて大きい額縁の中にマットを敷いて、黒の空間を多くして、額装するという、静の空間を作るような。間というか、音楽でもそうだと思うんですけど気持ちの良い間というのは考えながら創作しています。』

E『凄く芸術的な考え方というか、写真を超えた考え方ですね。余白を作るという考え方は音楽にも共通する事が多いなと思いました。アルバムを作る時に、曲間に何秒差し込むかどうかで曲の印象というのは大きく変わってくるので、そういう考え方に近いような気がしました。』

G『それはありますね。入れる情報と入れない情報の選別はとても重要だったりしますね。』



新アーティスト写真についてはどうでしたか?

E『アー写に関してはゼラチンさんに撮ってもらう事と、着る服に重きをおいていて、アー写で世界観を作り過ぎずなるべくフラットになるようイメージしました。』

G『コンセプトがしっかりしている内容なので、やり方を間違えるとダサく写ってしまう可能性もあるんだけど、一番は撮られる側、被写体がそれをきちんと理解してるかしてないかで写し方は変わってくるので、被写体側が要求するものに対してそれを全員が理解して私の前に立ったので一枚カットを切った時点で方向が見えたので、撮影していて楽しかったです。』

E『もう僕らは完全に安心しきっていて、遠足気分というか(笑) いい経験になりました。』

G『バス移動とかもあったからね(笑) 今回のような撮影の仕方は私にとって初めてだったのでいい意味で試されているというか、こちらこそありがとうございます。大体撮影し始めってみんな硬いんだけど、基本コンセプトがそこではなかったので始めから良い流れで撮影できるだろうなと思ってたんだけど、場所にも凄く恵まれたというか、絶対廃墟の前じゃなきゃダメとかそういう事ではなかったので、むしろここ(アー写撮影場所)なんかは私にとってはとても新鮮で、新しいビルだし、初めのイメージで出された素材と全然違うので (笑)良い写真が撮れたんじゃないかなと思っています。』

E『そうでしたね(笑) なんというか絶妙な着地をしたなと思いました。sheeploreらしさ、らしさというか、結局はバンドも角度によっては色んな見え方があるから、その中でもまさに今というか、今の僕らの雰囲気というのはバンド側としても大事にしていて、それを撮ってもらう事でなるべく僕らは自然体でいてそれをゼラチンさんに撮ってもらってそれが結果かっこよく仕上がるという、美味しい着地点になりましたね(笑) 上品な仕上がりで。』

G『上品いいですよね。ここまでクリーンな感じは初めてでしたね(笑) 普段は影ブワー!みたいなのばっかりなので(笑) 撮影していて思ったのは、バンドとアートってニコイチになりそうだけど、どっちかの我が強すぎてしっかり一緒になっているものってそうそうないと思うので、アートに拘っていると言いながらもバンド色が強すぎて、アートが後ろからついていっているものが多いような気がするんですけど、私の印象でsheeploreは両方バランス良くやろうとしているなというのは感じているので、今回お話をもらって撮った事にこれだけの意味合いがあるんですっていう形に持って行ってくれるというのは私としてはとてもありがたいなと思いました。』

E『いやいや、こちらこそありがとうございます。音楽以外にも色んな事が重要なんだなと思っていて、僕が作りたいものっていうのは、写真もそうですし映像などもトータルだとは思っているんですけどもでもそれを売りにしたくないなとは思っていて、前からそうなんですけどあんまり言わないんですよ。飽くまでも我々はバンドだと、音楽である!というバランスは守ってきたし、守っていきたいと思っています。』

G『ドヤってしてないもんね。』

E『したいんですけどね(笑) 言っちゃった方がわかりやすいですもん(笑)』

G『私もね、ドヤってしたいんですよ(笑) けど、そこは上品にね(笑)』

E『上品に(笑)』



”Moon Poetry”に因んで快楽主義や耽美主義に纏わる好きな作品について教えてください。

E『そうですねえ、僕は今回は楠本まきさんが正直なところですね。致死量ドーリスがモロです。 ほぼ無意識化で、ずっと読んできたものというか、見てきたもので、触れてきたものなので、今回は作品を作るにあたって改めて色々読んだりしましたが、、、うーん。…ドグラマグラかな(笑)』

G『あはは(笑) もともとは寫眞館ゼラチンというか、モノクロの写真がやりたい訳ではなくて、写真を自己表現の延長線上でやれるっていうところで始めたものなんですけど、その当時はカラーではオリジナルでやれるラボがなかったので、モノクロだと自分でやれたので、それを自由にというか。今Macでやっているような作業を、手作業で自分でやるのが好きでやっていたので、その前の時点で影響を受けていたかというと正直記憶が曖昧なんですが、けど結果として、エミル君が言ったように、まきさんの世界観とか、横溝正史の世界だったりとかっていうものが、三つ子の魂じゃないけど、そういうものが子供の頃に、見て聞いたものが自然に身についていてその時代時代で、若さゆえに吸収した時期もありましたね(笑) 』

E『好きな写真家とか聞いてもいいですか?』

G「いいですよ(笑) 作風として一番影響を受けたのはデボラ・ターバヴィルという方です。学生の時に写真を本屋で見て感動して、その方も女性カメラマンなんですけど、ファッションフォトというか、イメージフォトを撮っている人で、洋服のディティールとか全く無視して世界観で撮っていた人なんです。当時その人が撮った写真とかは全然見た事はなかったのですが、自分の敬愛する方も作品のモチーフとして使われているのをみて、「好きなものがリンクしている!」と感動した覚えがあります。』

E『好きなものは不思議とリンクしますよね。』

G『本当そうなんですよ。デボラ・ターバヴィルが出している作品もやっぱり全部好きで、今でも作品を見つけたら集めています。怪我もしてないのに包帯巻くのとかは基本的には嫌いなんですけど、そういうのもアートとして作品に昇華させていたりしていて、私がガーゼを使って額縁を作ったりするのは、その人からの影響だったりもします。買ってきたガーゼをそのまま使うのではなくて、どう汚したらカッコイイのかっていうのはまだ学生の頃にインターネットのない時代だったので、試行錯誤していました。作品をどう感じ取るかっていうのは、その時代に養ったような気もしますね。写真が嘘じゃなく見えるんですよ。嘘で虚構なんだけどちゃんとリアリティがあって。そういう部分はとても大きな影響を受けました。」

E『なるほど。ありがとうございます。音楽も多分そうで、僕は作品で物語を書いているので物語というのは言ってしまえば作り話なので、けどそれがいかに感情的に伝わるかというか、どういう風に伝わるのかというのは意識しています。』



今後について告知などがあれば教えてください。

G『台湾での個展が今年の秋頃に予定をしています。』

E『sheeploreのライブが6/15に浅草橋MANHOLE、6/27池袋手刀、7/10池袋手刀、7/22吉祥寺WARPで決まってます。』



最後に一言お願いします。

E『今回の作品は”Moon Poetry”と銘打ったのですが、毎年作品を発表する時に伝えたい事というのは、その時自分が思った事だったりします。単純なのですが、今の自分が何に関心があるのか、必要なものがなんなのかという事を毎年考えています。今年の作品を発表する前に考えていた事は、守りに入っていたなというか、入っているつもりはなかったんですけど、もっと好きにやったほうがいいなと思ってからのスタートだったような気がします。そこから色々メンバーと話し合った上で、今回はゼラチンさんにお願いする形になりました。人とも言えるし、物語とも言えるんだけど、表面的なものというよりかは、モチーフの見えない部分に意識しろというか、するというか、というのが今期のテーマで。影といえば・・・。闇といえば・・・。となった訳です(笑)』

G「闇が深いといえば(笑) ありがとうございます(笑)」

E『こちらこそ本当にありがとうございました。』



寫眞館ゼラチン
HP https://gelatingelatin.wixsite.com/shashinkangelatin

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